黒衣の刺客⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

いいなずけの元から引き離され、その末に、暗殺者として育てられた「隠娘」のかなしみ、朝廷の統治能力が弱体化した後唐の時代に、自領を守り抜くため、朝廷や近隣の豪族との駆け引きに明け暮れる主公の苛立ち。これらの登場人物の心境はしかし、本人から吐露されたり、挙動から説明的に表現されるようなことは一切ない。そのため、彼らに感情移入することはかなわない。人のアクションと風景のアクションは同じレベルでカメラに収まっている。
演出がすごい。特に、川か池の向こうで、兵士と隠娘が戦っている様子を主公の正妻がじっと見ているシーン。正妻のリアクションの欠如も異様だけれども、その周りに侍る従者たちの視線が、対岸ではなく、別の一点に向けられている。外界で起きることに対する徹底した無関心がある。それは、宮廷社会における下人たちの徹底した儀礼的無関心の一つなのかもしれないが・・・異様だ。そういった、もろもろの演出が作用して、ストーリーに全面奉仕しない細部が異様に際立っているこのフィルムは、それら自立性の高い完結したショットが立ち現れては消えまた立ち現れる、ということが続いていくかのごときである。そもそもストーリーや人間関係のわかりにくさといったらない。

黒衣の刺客 [Blu-ray]

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