キャプテン・アメリカの新作は

 ※ネタバレ注意
 
 宮台真司氏などがよく言うように、人を殺してはいけない、というルールを持った社会はなく、この世に存在する社会はどれも、仲間を殺してはいけない、というルールしか持ち合わせていない。それゆえに、戦争が起こると例外的に敵を殺すことは「罪」にならない。けれども、戦争帰還兵は、戦場という非日常と帰還後の日常に適用されるそんなルールの欺瞞とか落差に苦しむことになる。
 非日常の狂気のなかで敵を殺したベトナムやアフガンの帰還兵たちが、「自分は戦地で敵に対してこんなにもひどいことをした」と告白する集会のことをアメリカではウィンター・ソルジャー集会と言うことを私は今回初めて知った。アメリカにおいてそれが、兵士たちにとってのピア・カウンセリングのような位置づけなのか、それともなにか別の政治的な思惑のもとに開かれるものなのか、もしくはその両方か、私にはよくわからないのだけれど。
 キャプテン・アメリカが今回戦うことになる敵の陣営には、まさしくこの「ウィンター・ソルジャー」という名前が冠されたキャラクターがいるのだけれど、彼は、第二次世界大戦中に瀕死のところ、ある組織によって改造されて、ものすごく強くなった人間兵器(キャプテン・アメリカもそうだけど。)なのである。彼は、その手術の際に、記憶を消されて(=人間性みたいなものを奪わて)おり、その名が示すとおり、心を悲惨な戦地に置き忘れ、苦しみ続ける帰還兵の象徴のような存在として描かれているように思える。だから、キャプテンの本当の意味での敵ではない。後半そのことがはっきりする。
 この映画は、簡単に言うと、敵は殺してもいい、というルールの戦地で、心に傷を負った人々と、自分は手を汚さずに、テロを恐怖するあまりに敵を次々生み出していく、終いには国民をも例えばDNAレベルで徹底的に監視していく、とった思惑をもった国家安全保障組織とのあいだの、アメリカの良心をかけた戦いを描いている。
 ただし、上のような論点や、「自由」バーサス「ハイパー監視社会による安全」のような、さまざまな論点が闇雲に投じられていて、ごった煮状態となってしまったなあという印象を禁じ得ない。続編もあるようだし、今後ぽっと傑作が出てくる可能性も否定できないけれども、今作は娯楽作品としては楽しめるといった程度の内容にとどまっていると思う。
 Wikipediaによるあらすじは以下のとおり。以下のついてもネタバレ注意。

あらすじ
ニューヨークでの戦いから2年後、キャプテン・アメリカことスティーヴ・ロジャースはワシントンD.C.で暮らし、諜報機関S.H.I.E.L.D.のニック・フューリーの下で働きつつ、現代社会への適応に苦労していた。
ある日、S.H.I.E.L.D.の船舶が海賊ジョルジュ・バトロック(英語版)によって占拠されてしまい、ロジャースとエージェント・ナターシャ・ロマノフは、エージェント・ラムロウ(英語版)が率いる対テロ作戦部隊S.T.R.I.K.E.(英語版)と共に人質の救出へ向かう。その任務中、ロジャースはロマノフが船のコンピュータからデータを取り込んでいるところを見つけ、彼女がフューリーから別の指令を受けていることを知る。
ロジャースはS.H.I.E.L.D.本部のトリスケリオン(英語版)へと帰還し、フューリーからS.H.I.E.L.D.が進める「インサイト計画」の説明を受ける。これは船から打ち上げられたスパイ衛星によって敵を捉え、3基のヘリキャリアー(英語版)によって先制攻撃するというものだった。フューリーはこの計画に賛同しつつも違和感を持ったため、ロマノフに密かに計画のデータを持ち帰るよう指示したのだった。データが解析できないことを不審に思ったフューリーは、世界安全保障委員会のアレクサンダー・ピアースに計画の延期を要求する。
マリア・ヒルとの待ち合わせ場所へ向かう途中、フューリーはウィンター・ソルジャーと呼ばれる謎の暗殺者率いる部隊の襲撃を受けた。フューリーはロジャースのアパートに逃げ込み、戻ってきた彼にS.H.I.E.L.D.が危険であると警告する。ロジャースにUSBメモリを手渡した直後、フューリーはウィンター・ソルジャーの狙撃を受けて倒れ、手術中に死亡が確認される。後日、ピアースはロジャースをトリスケリオンに呼び出す。ロジャースがフューリーの情報を渡すのを拒否すると、ピアースはロジャースをS.T.R.I.K.E.に襲撃させた。これを振り切って脱出したロジャースを、ピアースは逃亡犯として手配した。
ロジャースは追われる身となった。ロマノフと合流したロジャースはUSBメモリのデータを利用して見つけたニュージャージー州にあるS.H.I.E.L.D.の無人の格納庫へ潜入し、古びたスーパーコンピュータを起動する。その中には、ナチスから生まれた組織・ヒドラ(英語版)の科学者アーニム・ゾラ(英語版)の意識が保存されていた。ゾラは第二次世界大戦後にS.H.I.E.L.D.が設立されて以来、かつて壊滅したはずのヒドラがS.H.I.E.L.D.内部で密かに活動を続け、人々が保安と引き換えに自由を放棄するように世界を誘導していたことを明かした。その直後、格納庫はS.H.I.E.L.D.のミサイル攻撃を受けスーパーコンピュータもろとも破壊されるが、2人はかろうじて生き延びた。
ロジャースとロマノフは、ロジャースの友人で元米空軍パラシュート兵のサム・ウィルソンに助けを求め、そして彼はウイングスーツ「ファルコン」を準備する。ピアースとS.H.I.E.L.D.捜査官のジャスパー・シットウェル(英語版)がヒドラの一員であると推論した3人はシットウェルを捕まえ、将来ヒドラの計画の邪魔になる恐れがある個人を特定できるデータマイニングアルゴリズムをゾラが開発していたことを白状させた。インサイト計画の真の目的とは、これにより特定した個人をヘリキャリアーと衛星を使って排除することであった。
移動中、ロジャース、ロマノフ、ウィルソンはウィンター・ソルジャーの襲撃に遭い、シットウェルは対向車線に放り投げられた。戦闘中にロジャースは、ウィンター・ソルジャーの正体は第二次世界大戦中に死んだはずの親友バッキー・バーンズであることを知る。かつてヒドラに捕まったバッキーはゾラの実験を受けて記憶を失い、暗殺者に仕立て上げられていたのだ。呆然となるロジャース。3人は逮捕されるがヒルによって救い出され、そして死を偽装することにより難を逃れていたフューリーと再会する。インサイト計画を阻止することを決意した一同は、ヘリキャリアーのコントロール・チップを交換することで自滅させる作戦を実行に移す。
世界安全保障委員会のメンバーがヘリキャリアーの発進のために集結した後、ロジャースはトリスケリオンで働く者たちにヒドラの陰謀を放送で暴露する。委員会のメンバーの1人に変装していたロマノフはピアースの武装を解除する。フューリーが到着するとピアースにS.H.I.E.L.D.のデータベースをロックを解除させ、ロマノフにヒドラの行動を全世界に公開させた。一同が揉み合った後、ピアースはフューリーにより射殺される。一方ロジャースとウィルソンは2基のヘリキャリアーに突入し、チップの交換に成功するが、3基目でウィンター・ソルジャーが現れ、ウィルソンのスーツが破壊されロジャースとの戦闘となった。ロジャースは最終的にウィンター・ソルジャーをかわしてチップを交換し、ヒルに連絡してヘリキャリアーを同士討ちさせた。ロジャースはかつての親友であるウィンター・ソルジャーとの戦いを拒み、そしてヘリキャリアーはトリスケリオンに衝突して彼はポトマック川へと投げ出された。ロジャースの呼びかけで記憶を取り戻したウィンター・ソルジャーは彼を救出し、その場を去った。
戦いは終わった。その後、S.H.I.E.L.D.は混乱し、フューリーは死を偽装したままヒドラの残党を追って東ヨーロッパへと旅立ち、ロマノフは過去の経歴について上院議会に尋問された。ヒルはスターク・インダストリーズの面接を受け、またロジャースの護衛をしていたエージェント13はCIAへと移った。ヒドラのダブルエージェントであったラムロウはトリスケリオンの崩壊で重傷を負い、病院へと担ぎ込まれた。ロジャースとウィルソンはウィンター・ソルジャーを追跡することにした。
エンドクレジットの途中の場面で、ヒドラの研究所でバロン・フォン・ストラッカー(英語版)が「奇跡の時代」の始まりを宣言し、エネルギーを帯びた杖1と2人の囚人(高速で動く者と念力を使う者(英語版))が登場した。エンドクレジット後の場面ではウィンター・ソルジャーがスミソニアン博物館を訪れ、記念館にあるバッキー・バーンズのパネルを見つめていた。<<