大みそかです。
 いわゆる被災地にいると、被災した人たちに年賀状をだすべきかどうか少なからず悩む。
 けれど「あけましておめでとう」という言葉は、今年はみんなにとっていい年であるようにあらかじめ祝ってしまおうという、幸運を予祝(よしゅく)する魔法のコトバだ。開けゴマの呪文で扉が開くように。あなたの一年が晴れやかであるように正月を迎えよう。それはグリーフワーク(喪の仕事)と矛盾しない。そいう考えで僕は被災した人にも年賀状を出した。よいお年を!
 ところで、年賀状で思い出すのは長田弘さんの「賀状」という詩だ。学校を卒業してから会う機会のなかった二人の少年の手にしたものは、過ぎ去った歳月とおなじ枚数の年賀状。その年賀状にはただぶっきらぼうに「元気か」とだけ。『通勤電車で読む詩集』でこの詩を紹介している小池昌代さんは次のようにこの詩を完ぺきに紹介している。

 賀状という、慣例のか細い接点が、豊かで太い歳月の縄を編み、かけがいのない絆を作る。
 …(略)「表現」から遠く隔たった、記号のような言葉の重み。元気か。賀春。ずしんと胸に落ちてくる。

通勤電車でよむ詩集 (生活人新書)

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