Big Fish

 かなり偏愛している映画。ティム・バートンの作品の中でどれが好きと聞かれれば、迷わずこれを挙げるでしょう。
 現実と空想が、父と子の共同作業により縫合され、それらを峻別することがもはや無意味になる瞬間=ラストは、よくあるパターンと思いつつも涙してしまう。
 ところで、本作の主人公の絵空事=ファンタジックな人生の脚色は、どうしようもない「哀しさ」や「やりきれないさ」から生まれた切実なものではありません。たとえば『ダンサー・イン・ザ・ダーク』あるいは『ライフ・イズ・ビューティフル』のような極限状態での嘘や空想というのはもちろん必要でしょうが、ティム・バートンは永遠に描かない(と思う)。「ファンタジーは追い詰められた人間の最後の拠り所」というテーゼを軽やかに否定し続ける態度が本物のファンタジー作家ティム・バートンの矜持だと思います。それでありながら号泣できる映画。素晴らしい。「切実さ」がない代わりに、圧倒的な世界の「豊かさ」があるのです。