舞城王太郎『短篇五芒星』を読む。今回は「美しい馬の地」。ネタばれ注意。
 本編の主人公後藤は27歳の男だが、唐突に「流産」という現象に対し怒りを覚え、その怒りに苛まれだす。きっかけはとくにない。近親者が「流産」を経験したということでもなく、「僕は、流産がこの世界に存在するのが許せないというか悔しいというか、とにかく腹立たしい」という心境に陥る。ほんと唐突に。
 この「苛まれ」の状態に陥ってから、彼女からは"女性の繊細な問題について、なぜあなたが怒るのか理解できない"、"気持ちが悪くて一緒にいられない"という理由で別れを告げられ、流産を経験した同級生には、同窓会で不用意な発言をし("思い出してもあげないのか""君の流産した子どもも一緒に僕が水子供養する"云々)、周りから猛烈な顰蹙を買う。そして結果的に身体的にも重傷を負う始末。その経過が一気呵成に描かれている。
 自分の生活圏から遊離した物事に不用意に「怒り」を抱くのは全くもってつつしまなければならない。しかしその「怒り」に癇癪持ちのように苛まれ、そもそもの問題圏からずれにずれ、新たな全く別の個人的問題を拵えてしまう。そのことに自分自身気づいているが、どんどん増殖して、個人的な問題の嵩は増していく。それと比例するように、人を傷つけ自分も傷つく。それほどある了見に囚われることの痛みとどうしようもなさ。
 そして、ここでも唐突に「怒り」にのぼせるようにして、

どこにも罪はない。悪もない。悲しみだけがあるべきところに僕は怒りを持ち込んでいたのだ。そしてそれは完全に間違いだった。僕自身にはどうしようもないことだったとは言え、それが間違いだったとようやく気付くことができた。ずっと皆が僕に訴えていたことにとうとう理解が追いついたのだ。(p40)

 と風景が変わってしまう。唐突な断絶。
「ずっと皆が僕に訴えていたことにとうとう理解が追いついたのだ」という、この「衝動の不合理」には身につまされるところが。。。。「唐突でゼロからポン」の世界で、それを抱いて泣くしかない。

短篇五芒星

短篇五芒星