ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

 大好きな映画。
 冒頭、金脈を掘り当てるために穴を掘り、そこに爆薬を仕掛けて点火し爆音の後もう一度穴に下る。しかし、途中で梯子が壊れ転落。しばらくして気絶から目覚め足を引きずりながら穴底から這い出すというシーン。それがダニエル・デイ=ルイス演じるダニエル・プレインビューという人物の来歴不明性を表象しているようだ。彼は油井を捜し求めカリフォルニアの荒野を放浪。地元住民を甘言で唆し、利益をむさぼり食うタイプの石油屋。
 ただし、プレインビューとポール・ダノ演じるキリスト教説教師イーライとの相いれなさ、対決は極めて人間臭く宗教的である。イーライをその説教のヒステリックで大仰なパフォーマンス性から、似非者にすぎないと切り捨ていることは少なくとも私にはできない。実際に、開拓期のモラルハザード状況下では、フィジカルな部分に訴えかけるパフォーマー=説教師がもてはやされたという史実があり、時代の要請があったのだ。プレインビューにしても、単なる山師という側面と、石油採掘の結果地元住民に開発利益をもたらすディべロッパー的側面もある。こちらも言ってみれば時代の要請があった。どちらもこの二面性を抱えた人物で、だから、この山師VS山師の対決は、歴史性と宗教性が濃厚に帯びてくるのは必然である。つまり神話的。
 プレインビューが石油屋として成功を収め始めた頃に、異母弟と名乗る人物が自分にもうまい汁を吸わせてくれと彼のもとにすり寄ってくるエピソードもいい。来歴不明の成り上がり男に過去からの来訪者。いっときの宥和ののちのカタストロフィ。
 また息子との離反が決定的になる際のプレインビューには『ブギーナイツ』のマーク・ウォールバーグ的なやぶれかぶれさがあって、やはりPTAは追い詰められた人間を描くのがうまい。
 

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