ペンギン・ハイウェイ

 

ペンギン・ハイウェイ

ペンギン・ハイウェイ

 本日は小説について。以下ネタばれ注意です。
 小学校四年生のアオヤマ君の住む街は、丘陵地帯に面し、「レゴブロックで作ったようなかわいくて明るい家」が立ち並ぶ郊外の新興住宅地。ある日、そんな街に突如として何匹ものペンギンが現れる。早熟で研究熱心な少年アオヤマ君はこの摩訶不思議な出来事の原因をさっそく独自に調査開始。「世界で一番忙しい小学生」を自認するアオヤマ君にはペンギンの出現(研究テーマ名としては「ペンギン・ハイウェイ」)のほかに、いくつか同時進行で抱えている研究テーマがあり、それはまず歯科医院ではたらく神秘的なお姉さんについてであり、また地図に載っていない小川の水源などを探検し独自の地図を完成させること(「プロジェクトアマゾン」)などである。「ペンギン・ハイウェイ」や「プロジェクト・アマゾン」はクラスメイトのウチダ君と共同研究の形をとっている。またそんな中、ハマモトさんというこれまた早熟なクラスメイトの女の子から、森の中に突如出現した〈海〉という浮遊する奇妙な球体=生命体の共同研究も持ちかけられる。大忙しのアオヤマ君なわけだが、それぞれ別と思われていたこれらの研究が、この〈海〉を通して一つに結びついていたことが次第に明らかになっていく。
 
 アオヤマ君は非常に早熟で高潔な少年。スズキ君というクラス内の権力者にも恐怖せず冷静にその統治システム?を分析したりしています。また、皇帝スズキ君に標的にされ嫌がらせを受けても、困った顔一つせず、毅然としている。ただし、無理をしてそうしているといった雰囲気は皆無で、というか鈍感で気づかないという部分がおおいにあり、そこがこの主人公のお茶目なところ。「慢心しないのが僕のえらいところだ」などといっているかわいい人物なのです。
 すべての謎は森の中に突如出現した球体の〈海〉につながるわけですが、この生命体のような海はもちろんレムの『惑星ソラリス』からインスピレーションされたものでしょう。お姉さんは、ソラリスでの妻のように、この〈海〉から放射されるエネルギーによって出現した生命体なので、この〈海〉の膨張収縮サイクルとお姉さんの体調が相関していたりします。ただし、たとえば、体調の浮き沈みの激しい女性と同年齢くらいの男性という話だとなんだかきな臭いロマンスになるのですが、少年視点で描かれていることで、お姉さんも平気を装い、弱さがクローズアップされることもなくあっけらかんとしていていいんですよね。もちろん表現上においてもそのような描写は抑制されているわけです。同じように、お姉さん自身が世界の綻びで、消滅しなければならない運命であることや、お姉さんの故郷の記憶も偽の記憶である、といった点を哀しく描かない点もgoodです。理知的な大人たちの子どもたちに向ける視線やなんかが『となりのトトロ』等ジブリに通じるものがありますなあ。 
 ただし、どうしても『有頂天家族』には負ける。というか『有頂天家族』が傑作すぎるということです。また、近年の日本SF大賞と比較しても貴志祐介さんの『新世界より』のほうが残念ながら面白いですね。
有頂天家族

有頂天家族

新世界より (講談社ノベルス キJ-)

新世界より (講談社ノベルス キJ-)