*多少ネタばれあり。
- 『X-MEN ファースト・ジェネレーション』
2011年の公開の作品。
ブライアン・シンガーなどが監督した前3作(?)の前日譚で、プロフェッサーXとマグニートが袂を分かつきっかけとなった一連の事件を描いている。監督はマシュー・ヴォーン。彼は、本作の前に傑作『キック・アス』のメガホンをとっており、とてもアメコミ好きの監督らしい。
前作『キック・アス』は、よく言われているように、『スパイダーマン』の「強い力には責任が伴う」という(ある種『スターウォーズ』的な)テーマへの返歌のような物語。そのテーマは「無力ならば責任は伴わないのか?」というもの。
なんら特殊能力を持たない高校生が、青臭い正義だけを武器に(ダサいコスチュームで)悪と戦う。映像的にかっこいいのは間違いなく「私怨」で戦うヒットガール(ジョーン・ジェットの「バッド・リプテイション」に乗せてマフィアの手下を殺しまくるシーンはすげえ爽快。だけどグロテスクでおぞましい)。
キック・アスはそんな敵と味方の圧倒的武力の間で、血を流しながら、それでも正義を体現し続ける。そして、復讐を終え当然のごとく心に傷を負ったヒットガールの日常への復帰にも配慮する。そんな彼こそ本当の意味でスーパーヒーローだった。
無力なスーパーヒーローとは打って変わって『X-MEN』は特殊能力集団の話。登場人物のほぼすべてが人間離れした能力を持っている。しかし、『キック・アス』から引き継がれたテーマが確かに存在する。
それは、私怨=ルサンチマンに囚われるダークサイドと私怨から自由なヒーローという構図だ。もちろんこれはマグニートとプロフェッサーXの離別に象徴されている。
核戦争の恐怖がかつてないほど現実味を帯びたキューバ危機の正史に、「ミュータント共和国」の生成・崩壊という偽史が組み込まれた本作のストーリーテーリングは絶妙。国や人種どうしが、為政者たちがあおりたてる恐怖をお互いに投影しいがみ合っていた「恐怖の時代」にふさわしく、人間とミュータントも不幸な形で出会い(あるいは出会い損ね)、ミュータント・コミュニティのなかでも、「人間は信用ならない」というマグニートと、「人間は信用するに値する」というプロフェッサーXの決別が生じる。哀史の2重(3重)写し。
マグニートの人間不信がホロコーストに端を発している点(彼は両親をアウシュヴィッツで亡くしている)など、「近代人間史」と深く相互嵌入したこのミュータント・サーガに、僕はアメコミの射程の深さを改めて思い知ったのだった。とにかくラストのキューバ危機のシーン(マグニートとプロフェッサーXの思想の違いが決定的になるシーン)は涙なしでは見られないのです。
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